立命館大学 3回生 國安 峻
行政の場に民間の活力を取り入れることによって、より安く、より質の良いサービスを提供するという行政の形が昨今注目を集めている(NPM)。本発表では、その中から指定管理者制度を取り上げて、その制度趣旨からみた問題点に対して、解決案を提示していく。
(1)指定管理者制度とは
これまで、地方自治体やその外郭団体しか行えなかったいわゆるハコモノと呼ばれる施設(図書館、美術館等)や、公園などの管理・運営を、民間団体が受託できるようにした制度。
3 普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するもの(以下本条及び第二百四十四条の四において「指定管理者」という。)に、当該公の施設の管理を行わせることができる。
(2)制度趣旨
(2)‐1 衆議院総務委員会会議録(2003年5月27日)に見る改正の理由
①「住民のニーズが多様化」したことにより、それに、「効果的、効率的に対応するためには、民間の事業者のノウハウを広く活用することが有効である。」
②「公的主体以外の民間主体においても十分なサービスの提供能力が認められるものが増加して」おり、さらに「複数の自治体から、第3セクター(公共団体や自治体の出資法人)以外に、民間企業が地方公共団体の設置した公の施設を管理できるようにしてほしいとの提案が出された。」
(2)‐2(2)‐1からうかがえる改正の理由の考察
①より民間の活力の活用による住民への公的サービスの質の向上
②より自治体の財政的な問題から、自治体主導によるコストの削減
という2点がうかがえる。これは、NPMの理念にもかなうものであろう。
(3)従前の制度との違い
(3)‐1 管理委託制度
図書館、博物館といった施設は「住民の福祉増進という行政目的をもって運営管理されているのであるから、地方自治体が施設を管理するのが原則であ」った。しかし、施設が急増してくるにつれ、自治体が管理・運営を一手に引き受けるのは困難になっていたため、それを委託可能とする制度であった。ただし、この制度には「受託者の公共的団体原則」があり、受託者は公共団体もしくは公共的団体に限定されていた。
(3)‐2 指定管理者制度
従来の管理委託制度とは違い、施設の管理を広く民間にも開放した制度である。この制度の下で施設の管理・運営を行う団体もしくは個人を「指定管理者」と言う。指定管理者は自治体への事業報告書の提出や自治体の調査を受け入れねばならないなどの、自治体の監視に服する義務がある。また、この指定は、期間を定めて行われる(通常3~5 年)。選定の際には、希望する団体からの応募を募り、自治体がその中から最も適正に運営できるであろう団体を選ぶ「公募方式」が望ましいとされる。
(4)指定管理者制度における問題点とは
(2)‐2 で挙げた制度趣旨から考える
① 「公的サービスの質の向上」という点から
⇒住民のニーズに応えることこそが「質の向上」。では、住民のニーズを最終的な決定機関である議会が知り得るのか?
② 「行政コストの削減」という点から
⇒行政コストの削減を意識するあまり、サービスの質を犠牲にしてしまうことはないだろうか?
制度の趣旨は、行政サービスが最大限効率的な形で、最大限質の高いものを供給することを求めている。これを達成するためには行政側の一面的視点だけでなく、市民側からの視点が不可欠であるように思う。市民が指定管理者の選定また調査に関わることのできる制度がひつようであるのではないだろうか。
別紙資料と並行して見ていく
(1)交野市の事例 ‐ 青年の家といわふね自然の森スポーツ・文化センター ‐
① 交野市立青年の家
施設概要 | 1976年(昭和51年)青少年の憩いの場となるべく、また交野市民の生涯学習活動の中心的施設として建てられる。 ここには教育委員会生涯学習推進部が置かれ、交野市の生涯学習事業の中心的役割を担っている。 青年の家各部屋 及び、所轄屋外施設の受付窓口のある事務室の他、研修室・図書室・多目的ホール・音楽研修室などがある。 |
指定管理者 | 財団法人交野市体育文化協会 |
選定理由 | 個人情報保護の観点からの安全性を重視。また、過去の実績等も考慮し、適正に運営できると判断されたため。 |
問題点 | Ⅰ 非公募理由が曖昧であり、不明確。 Ⅱ 利用者ニーズの把握が効果的に行われ、またそれが実施されているのかどうかが不明。 Ⅲ 個人情報の保護は民間では出来ないとする理由が曖昧。 |
② 交野市立いわふね自然の森スポーツ・文化センター
施設概要 | 自然の中で川遊びやキャンプといったアウトドアが楽しめるレジャー施設。またレストラン、体育館も併設しており、スポーツ、式典など、様々な用途で利用できる便の良い施設となっている。 |
指定管理者 | 毎日美装株式会社 |
選定理由 | 適正な管理・運営の下での指定管理料の大幅なカットが実現されたため。 |
問題点 | Ⅰ 毎日美装株式会社は建物メンテナンスを専門としている企業であるので、施設の経営は専門外である。適正な運営ができるのか。 Ⅱ 利用者ニーズの把握が効果的に行われ、またそれが実施されているのかどうかが不明。 |
(2) 交野市に見る問題点:再考
以上2施設のどちらでも、制度導入後の検査は行政だけで行っていることが資料から分かる。上にあげた問題点の多くは、行政とは別の視点を持ち、行政の利害に頓着なく意見を述べることができる第三者機関の検査を加えることで、ある程度改善が可能であるように思う。
以上の事例から分かるように、現状、行政が選任の段階で事実上の決定権を握っている。2の(4)で挙げたように、議会が住民のニーズを把握しきれていないという現状もあり、実際には最終決定機関であるはずの議会が機能しておらず、結果行政が独断で指定管理者を選任、監視しているという状況が出来ている。
○第三者機関による指定後の検査の義務化
そこで、第三者機関による検査の義務化を提案する。住民のニーズに応えるというのであれば、現状を住民の視点から評価するという作業が必要になってくる。また、行政以外の主体が監視に加わることで、より多方向の視点から監視を行うことができる。これは、サービスの質の向上だけでなく、施設の安全面にも効果があるものと思われる。
第三者機関は有志の人々に頼らなければならない。住民の視点を持った意見が必要なため、市民である必要があるだろう。
以上、一つの政策提言という形で解決案を提示したが、まだ問題は山積している。
しかし、何より大切なのは、住民一人一人の意識であるように思う。盛岡市では、既存の外郭団体を優先的に指定管理者に選定しようとしたところ、住民や企業からの反対があり、この問題について考えるセミナーが開催されることになった、という例がある。このように、住民ニーズを実現していくのは自治体であるが、ニーズを伝えていくのは自分たちであるという自覚を持つことが大事である。
NPM (New Public Management)
「新しい公共管理」の意味。伝統的な行政手法が行き詰まりをみせる中で、「新しい発想に基づく新しい公共管理の手法の総称」とされる。NPM は多様な意味を有するが、①民間企業の経営手法を公的部門に導入する、②市場機能の活用を通して公的部門の組織的減量、③公的部門の提供するサービスの質の向上、④成果志向・顧客志向を高めること、などを狙いとする。
公共団体
日本国の法令に基き、国の特別の監督の下に一定の行政を行うことを存立の目的と与えられた法人。地方自治体、公共組合、独立行政法人などがこれにあたる。
公共的団体
公共的な活動を営むものは公法人でも私法人でも、また、法人でなくても全てこれに含まれる。農業協同組合、森林組合、商工会等の産業経済団体、社会福祉協議会、青年団、婦人会等の文化事業団体など。
摂南大学 3回生
増田晃基
摂南大学 3回生
宮崎千佳子
摂南大学 3回生
江夏美保子
摂南大学 3回生
長谷部瑞希
摂南大学 3回生
摂南大学 3回生
小西陽介
交野市では“塩漬けの土地”問題が深刻です。平成2 年度から平成9 年度の間に、多くの土地を土地開発公社において先行取得してきました。しかし、その多くが売却されずに残っており、利息額が莫大となり、市税や固定資産税が減少したことも相まって、交野市の財政状況は危機的状況に陥りました。平成9 年のピーク時には360 億円超の負債を抱えました。
大阪府下の他市との比較 (平成19年度) | ||
---|---|---|
5年以上の保有額 | 標準財政規模に占める比率 | |
交野市 | 222 億 | 173% |
高石市 | 123 億 | 102% |
四條畷市 | 51 億 | 51% |
泉大津市 | 49 億 | 32% |
大東市 | 59 億 | 28% |
泉佐野市(早期健全化団体) | 83 億 | 42% |
※出典:浅野詠子著「土地開発公社が自治体を侵食する」自治体研究社[2009 年] 51 頁
これらの問題を解決するための提案をします。まずは『三セク債』を活用し、売却できる土地は売却し、次に市場で売れない土地を“一坪地主”と死因贈与を活用して処分するものです。
現在、交野市には資金的な余裕がないので短期間での問題解決は望めません。つまり、公社の保有する土地を一坪に小分けにし、市民が買い取り“一坪地主”となり、その市民が亡くなられた場合、市へその所有権を贈与というスキームです。
これにより“塩漬けの土地”問題は解消できます。売れない一筆の土地をすべて一人に買い取ってもらうことは難しいと思われるので、交野を愛する市民に“一坪地主”となってもらうことがポイントです。これは『ナショナルトラスト運動』を参考にしたものです。
三セク債・・土地開発公社等の解散又は不採算事業の廃止を行う場合に必要となる地方公共団体が債務保証等をしている公社借入金の償還に要する経費に充てるための地方債です。
【発行期間は平成21年度から平成25年度までの5年間】
交野市は、他都市との比較における強みの一つとして自然や歴史・文化等の地域資源を活かし、工業、商業、農業や観光業などの従事者が連携した地域産業の活性化を目指しています。しかし、第二京阪道路開通により、交野市へのアクセスが便利になったにもかかわらず、今のところ、通過地点としかなっていません。
そこで、交野市の目的地化・経由地化について以下に提案します。
①産業振興・地域経済活性化のためのワク組づくり
交野市では、産業振興や地域経済活性化のための基本条例がきちんと定まっていないことから、施策に一貫性が乏しいため、地域経済への波及が弱いのが現状です。
そこで、昨年の12 月に『(仮称)交野市産業振興基本条例の制定を求める請願』が議会で採択されました。基本的な事項を定める条例を制定することにより、産業基盤の安定及び強化並びに健全な発展を促進し、市民生活の向上を目的とします。
②都市再生整備計画事業と交付金の活用
地域の特性を活かしたまちづくりを実施することにより、地域住民の生活の向上と地域経済(社会)の活性化を図ることを目的とする『都市再生整備計画事業』の費用に充当するための『社会資本整備総合交付金』があり、これを財源として活用すべきです。
<活用事例>
◆歴史・文化を活かしたまちづくり
→愛知県犬山市「犬山城下地区」
◆アメニティ向上を目指したまちづくり
→広島県広島市「広島都心地区」
◆少子・高齢化に対応したまちづくり
→長野県佐久市「浅香地区」
③観光まちづくり
平成22 年3 月に第二京阪道路が全線開通し、阪神高速8 号京都線、京滋バイパス、近畿自動車道とのネットワークが形成されました。この第二京阪道路の開通は、その沿道地域にとっては地域経済活性化の大きなチャンスです。そのため、各市において第二京阪道路の沿道地区の整備に力が入れられており(主に、地権者による事業を支援しています。)、星田はじめ、交野市内の各地区でも同様に検討がはじまっています。
“Re.かたの”~ もう一度かたのへ ~
リピーターを増やすことを目指し、施策を実施・検討することを提案します。
第二京阪道路沿道の地区整備が成功すると、交野市は大きく変わります。ヒト・モノ・カネが集まって地域経済が活性化し、財政上の効果としても、固定資産税・住民税などの税収アップというメリットもあるので、年々、市税収入が減少するなど財政難に苦しむ交野市にとっては、是非とも成功させたいまちづくりです。
四条畷市交野市清掃施設組合は、平成25 年から28 年にかけて交野市の私市にごみ処理施設を新しく建設することになっています。
現在、新ごみ処理施設における建設費および用地費などの内訳は下記の表のようになっています。下記の表から、平成21 年度の予算内訳において、その合計額は約147 億円となっていたことが分かります。その後、ごみ排出見込み量の減少によって、平成24 年度では約133 億円に計画が見直されています。しかし、交野市・四条畷市両市の財政状況から見て、この計画見直しを行ってもなお、建設費および維持費の削減が大きな課題となっています。その上、水道等のインフラ整備工事、近隣住民対策や汚染土壌対策(予定地はダイオキシンなどの有害物質で汚染されています。)等の費用が必要となるため、市が「財政規律」と位置づける『第2 次財政健全化計画』に示されている総事業費145 億円を超えることは明白です。
現施設の建設では7 年ほどの期間を要しました。早く新ごみ処理施設を建設する必要があるにしても、このままの杜撰な計画で進めていては、交野市は財政破綻になりかねません。
そこで、工期を分割し、財政状況を確認しながら完成を目指すことや、受け入れ可能な他市にごみの一部を引き受けてもらえるように協力を要請することで、財政への負担を軽減することを目指すことを提案します。
建設費・用地費等内訳(単位:千円)
※総事業費のうち、水道等のインフラ整備工事、近隣住民対策や汚染土壌対策(予定地はダイオキシン等の有害物質で汚染されています。)等の必要となるはずの多くの事業が不明確です。また、それらにかかる費用も示されていません。
近年、交野市の『市政方針』にも多用されている「協働」という言葉の必要性が注目されています。
各市でも実践されていますが、その定義に関しては、必ずしも明確ではありません。現在、他市では、さまざまな定義づけが行われ、協働事業方針を決めるために必要なマニュアルやガイドラインを策定の上、協働事業に取り組んでいます。しかし、交野市には「協働」の定義がありません。全庁的な統一ルールがないことから、市や市民に「協働」への考え方や対応に差異が生じる可能性があります。かかる状況では「市民の声」が対応できていなかったり、市民に近づきすぎて振り回されたりといった問題も起こりかねません。
そこで、こういった現状を改善するため、交野市は、まず、市民計画策定や条例制定、予算調整などを行うにあたり、基本的な行政としての意思決定をしっかりと定める必要があります。この幹となる部分を定めた上で、市民との「協働」に関するマニュアルやガイドラインを作成し、その定義を明確にすることによって、市と市民とが共通の目的・目標に向かい連携していけるはずです。
これを奇貨として、交野市には“もっと輝くまち”になってもらいたいです。
【写真】交野市役所別館1階:わいわいルーム
※交野市では、ワークショップを活用した協働が行われ ております。また、市民活動の情報交換の場として、 交野市役所別館1階にある「わいわいルーム」が提供 されています。
2015年には4人に1人が 歳という超高齢社会を迎えるわが国において、成年後見制度の需要が高まっています。
※成年後見制度とは、認知症、知的障害や精神障害などにより判断能力が不十分な者に法定代理人(成年後見人等)を付け、本人に代わって法律行為を行わせることで本人の権利や財産を保護するための制度です。
提案
①成年後見制度の普及
交野市民のほとんどは、未だに、市と成年後見との関係どころか、成年後見制度の存在すら知らないと思われます。パンフレットの作成や説明会の実施などによって周知を図るべきです。
②市長申立の件数の増加
時間のかかる親族調査を外部委託するなど手続きの短縮化を図るべきです。
※市長申立とは、本人や親族に代わり、市長が家庭裁判所に申立をする制度です。
③成年後見に関する費用及び報酬の助成の積極化
申立に必要な費用は10 万円程度です。その上、成年後見人等に報酬を支払わなければなりません。低所得者も成年後見制度を利用できるように、助成の対象者の拡大を図るべきです。
④市民後見人の養成
成年後見制度の需要の高まりによって、成年後見人等となる者が不足しています。市民後見人の養成を図るべきです(障がい者福祉では市の必須となります。高齢者福祉では努力義務です。)
⑤成年後見センターの設置
成年後見を相談する窓口は設けられています。しかし、成年後見制度が難しいこともあって、職員が有効な助言ができていない現実もあります。担当職員向けに研修を行い、成年後見対応に特化した相談窓口を設けるべきです。